Strawberry Bubblegum 白書

 2003年夏、10ccマニアをうならせるコンピレーション・CDがついに発売された。この「Strawberry Bubblegum」である。副題に「A Collection of Pre-10cc / Strawberry Studios Recordings 1969-1972」とあるように、オリジナル10ccの4人、すなわちEric Stewart、Kevin Godley、Graham Gouldman、Lol Cremeが10ccとしてデビューする前に(デビュー後の作品も一部含まれているが、それについては後述する)、彼ら自身の所有するストロベリー・スタジオでレコーディングし、数々の変名で発表してきたレコード音源をまとめたものである。
 ここにクレジットされているのは全部で23曲だが、最後に隠しトラックとして、英国のコメディアンでテレビ司会者のLeslie Crowtherが歌う「Santa Claus」が収録されている。この曲はGrahamがHilary名義で書いた曲だそうだ。
 
 曲紹介の前に、一つ裏話を。
 それは6月3日のことだった。サンクチュアリ・レコーズのDavid Wellsと名乗る人物から、メールが届いた。いわく、「Strawberry BubblegumというタイトルのCDを出す。当社はPyeのバックカタログを保有しているし、RCAおよびKasenetz Katzの音源使用許可もBMGから得ている。ついては、マスターが見つからないものが3曲ほどあるのだが、CD−Rでいいから提供してくれないか」とのこと。その曲とは、Fighter Squadronの「When He Comes」と、Festivalの「Today」「Warm Me」だった。
 こういう依頼、実は初めてではない。今までも年に一度くらいは似たような依頼があったが、身元が怪しい例が多く、断ってきた。今回は大丈夫そうだったが、念のためにオフィシャルFCのD. Jarvis氏に照会してみた。するとJarvis氏は「彼のことは信頼していいと思う。その3曲なら私も持っているから、CD-Rは私から送っておくよ」と返信してきた。こちらとしても、同国内の郵送の方が早いだろうしと、異論はなかった。早速、Wells氏にはオフィシャルFCが対応する旨メールを書いておいた。それが6月4日の夜のことだった。
 支配人さんのQ&Aページで、amazonでCDの予約受付が始まっていることを知ったのはその翌々日である。

そんなわけで、上記の3曲をよく聴くと、針音が消しきれずに残っている部分がある。これは、Jarvis氏所有のレコードが元ネタになっているからだ。とはいえ、大半の針音は見事に消されている。さすがはCastle、大手である。ちなみに先日入手した「Fading Yellow Vol. 4」という1000枚限定のコンピCDは、Frabjoy & Runcible Spoonの「Animal Song」目当てで買ったが、この曲はともかく、全体的に針音がひどく、ブート以下の出来栄えだった(Record Collector誌にもレヴューがあったし、ブートではないようだが・・・)。

 脱線ついでに、「Sheet Music」の支配人さんがあるところで「この音源、レコードで集めたらいくらかかるのか」とおっしゃっていたので、調べてみた。隠しトラックも含めた24曲を集めるのに、シングル15枚が必要。そのうちLeslie Crowtherを除く14枚が手元にあるが、Garden Odysseyだけ購入価格が分からなくなっている。残り13枚をなるべく原産国レギュラー盤で計算すると(プロモ盤しか持っていないものもあるが)、2万2217円。最初の予想では、3〜4万は払っているだろうと思っていただけに、ちょっと意外である。ちなみにその中で最も高く払ったのがSilver Fleetで2813円、最も安かったのがPeter Cowapの「Crickets」で400円。どちらも送料込みの値段である。もっとも、Cricketsは10年以上前の値段だから、今となってはその数倍はするかもしれない。

 最後に、もう一つ裏話。このCDのライナーのカラー面、左上のFighter Squadronの独盤ジャケットと、トレイ内部のストロベリー・スタジオのテスト盤レーベル、他の画像に比べてピンボケだが、それもそのはず、私のこのサイトから無断で借用したものだからだ。申し出てくれればそれなりの画質のものを送ったのに。

では、各トラックの一口解説を。なお、グループ名のうち、白字は10cc4人の変名、青字はKasenetz所属グループの名義を借りたもの(片面のみ、あるいは両面を10ccのメンバーだけでやっている)。
1.Sausalito (Is The Place To Go) - Ohio Express
Grahamが歌う典型的バブルガム・ポップ。日本をはじめ各国盤が出ている。巻頭にふさわしい、ノリのよい曲。
2.Come On Plane - Silver Fleet
クレジットはKevinのヴォーカルとなっているが、確かに声質は似ているものの、キャラクターはLolのよう・・・。
3.Tampa, Florida - Peter Cowap
Graham作。これも非常にテンポのいい曲。Cowapのスモーキーなヴォーカルもいい。
4.Have You Ever Been To Georgia? - Garden Odyssey
Hotlegs? と思わせるイントロからトム・ジョーンズ風の展開に。Tony Christie、Peddlersのヴァージョンもあり。
5.Travellin' Man - Tristar Airbus
マンチェスター・ユナイテッドのサポーターズ・ソング。Grahamの軽快なヴォーカルが楽しい。
6.Crickets - Peter Cowap
イントロはトラッド風だがコーラス部の「Cricket、Cricket...」という繰り返しがユーモラス。
7.Susan's Tuba - Freddie & The Dreamers
作曲者のGrahamが「この曲のことは忘れてしまいたい」とまで言った曲。バブルガムらしい曲ではある。
8.Today - Festival
Hotlegsの曲のリメイク。マルチトラック・ヴォイスの原型であり、Hotlegs版より出来はいいかも。シングル発売は「Donna」より後。
9.Umbopo - Doctor Father
Neil Sedakaが気に入って、「Solitaire」に10ccを採用したといういわくつきの曲。確かにコーラスは圧倒的だ。
10.Safari - Peter Cowap
中南米風の軽快なリズムの曲。GrahamとCowapの共作。リイシューされたり、タイ盤に収録されたりと、ヒットの形跡あり
11.Da Doo Ron Ron - Grumble
おなじみの曲を、当時流行のファルセット大会でアレンジ。10ccデビュー後1973年の発表。
12.The Joker - Garden Odyssey
Graham作曲(共作)、Eric & Grahamプロデュース。「Odyssey」というスペルミスはわざと?
13.Funky City - Manchester City F.C.
これぞファンキー! この時期(72年)の作品の中でも出色の出来だと思う。ヴォーカルはLolとKevin。
14.The Man With The Golden Gun - Peter Cowap
Cowapのソロ第2弾は偽カントリー風「黄金の銃を持つ男」。007との関連は「?」。これもCowapとGrahamの共作。
15.When He Comes - Fighter Squadron
Kevinの朗々とした歌声がしびれる。この名義は他にも出ているので「変名」ではないが、紛れもなく「10cc」だ。
16.Roll On - Doctor Father
「Umbopo」のB面。この曲あたりから、Ericのヴォーカルがメキメキとうまくなってくる。
17.Wicked Melinda - Peter Cowap
6.のB面。これも中米風。どうやらこれがCowapの趣味のようだ。
18.Willie Morgan - Tristar Airbus
マンチェスター・ユナイテッドのサポーターズ・ソング。ギター・ソロなんて既に10cc(「Donna」発表は半年後)。
19.Pig Bin An' Gone - Grumble
11.のB面。インストゥルメンタルで、10ccの4人+Cowapのアンサンブルが冴える。
20.Warm Me - Festival
8.のB面。EricとGrahamの共作。Ericのヴォーカルがすばらしい出来栄え。
21.Oh Soloman - Peter Cowap
10.のB面。インナーには「Oh Solomon」とあるが、Solomanが正しい。
22.Boys In Blue - Manchester City F.C.
地元のサッカー・チーム、マンチェスター・シティFCのサポーターズ・ソング。曲の出来はそれなり。
23.There Ain't No Umbopo - Crazy Elephant
Crazy Elephant名義だが、この曲に関しては10ccそのもの。Doctor Fatherの別ヴァージョンで通る。
Hidden track: Santa Clause − Leslie Crowther
Grahamが父Hymie氏と共作したといわれる曲。名義はS. Hilary。1970年12月4日発売(レコード番号はPye 7N 45020)。